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東京高等裁判所 平成6年(ネ)5298号 判決

控訴人 日軽興業株式会社

右代表者代表取締役 秋元寛

右訴訟代理人弁護士 清水徹

新井賢治

高野毅

右訴訟復代理人弁護士 坂下毅

被控訴人 清野周代

大和圭子

渡辺晶子

右訴訟代理人弁護士 伊丹経治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

当審も控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決九丁裏七行目の末尾に「なお、右売買契約書には前記のとおり、通常は住宅購入者が住宅ローンにより不動産業者等から不動産を購入する際に用いられるローン条項が入っているが、これはコスモハウスの相澤が、控訴人において金融機関からの融資を受けられない場合を考慮して提案したものである。」を、同八行目及び同九行目の各「不動産譲渡」の次に「に伴う」を各加入する。

2  同一一丁裏六行目「前掲」から同一三丁表四行目「できない。」までを次のとおり改める。

「前記ローン条項は、融資申込先の金融機関を売買契約書上特定したうえ、買主が右金融機関から融資を拒絶された場合には、手付金の放棄あるいは損害賠償金の支払いなどなんらの負担もせず無条件で契約を解除でき、既に支払った金員の返還を求めることができるというものである。更に、前掲≪証拠省略≫によれば、本件売買契約書には右のようなローン条項のほかに、第一〇条には、当事者の一方が契約の条項に違反し、期限を定めた履行の催告に応じない場合には、相手方は契約を解除することができ、買主の違約によるときは、買主は売主に対して違約金として八六四万円を支払い(既払代金による充当を許す。)、売主の違約によるときは売主は買主に同額の違約金を支払いかつ受領ずみの金員を返還する旨の約定があり、また、第三条には手付金に関し、当事者が契約の履行に着手するまでの間は買主は手付金を放棄し、売主は手付金の倍額を支払って契約を解除することができるとの条項があることが認められる。これらの条項を検討すれば、ローン条項は、買主に金融機関からの融資を利用して不動産を購入しやすくする便宜を与える一方、金融機関の融資許否の判断に要する期間はせいぜい一ヵ月程度であり、右程度の期間であれば契約が無条件で解消されても売主側にさほど損害を与えることはないことを考慮し、ローン条項を適用して契約解除をしようとする場合において、金融機関の融資拒絶の判断がされたときは、相当期間内に解除権を行使することとし、その期間内に限り、買主に無条件で売買契約を解除し、手付金の返還を求めうる権利を与えたものとみるのが相当であり、金融機関から融資を拒絶された買主がいつまでも無条件で契約を解除する権利を留保することを定めたものと解することはできない。けだし、ローン条項による無条件の契約解除がいつまでも許されるとすれば、本来履行期までに代金を支払うべき義務を負っている買主が、金融機関からの融資が受けられないという専ら買主側の事由に基づき、売主を長期間不安定な立場に置き、手付金の返還も求められるという一方的な不利益を負わせるもので、売買契約の当事者の通常の意思に反するからである。そうであれば、融資申込先の金融機関からの融資が拒絶された場合には、買主はすみやかにローン条項を適用して契約を解除するか、他の方法で資金を調達するかを選択すべきものであり、相当期間経過後はローン条項による契約の解除権は消滅し、これによる解除は許されないと解するのが相当である。

前記認定の事実によれば、本件売買契約において約束された残代金の履行期は農地法五条の農地転用許可がされた日の後七日以内であったところ、平成三年一〇月二五日には右許可がされたが、控訴人は、既に同年九月中旬には融資申込先の三菱銀行から融資を拒絶され、同年一一月二〇日ころ残代金支払いの期日を平成四年二月二九日まで延期してもらい、あさひ銀行に対して融資の可否を打診したが、これも拒絶されるに至り、平成三年一二月末には金融機関からの融資を含め、資金調達の見込みは全く断たれたというのであるから、遅くとも平成四年一月初旬にはローン条項による解除権は消滅したものというべきである(まして、残代金支払期日である同年二月二九日の時点でローン条項による解除権が消滅していたことは当然である。)。したがって、その後に控訴人によってなされたローン条項による本件売買契約の解除は無効といわざるを得ない。抗弁2は理由がある。」

よって、原判決は相当で本件訴訟は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 時岡泰 裁判官 山本博)

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